新型コロナウィルスの世界的大流行による経済的影響により、米国では既に倒産件数が増加しており、今後も様々な企業が倒産を申し立てることになると思われます。経営危機に瀕している米国企業のビジネスパートナー、貸主又は債権者である日本企業は、倒産申立てに対処するため準備をしておく必要があります。そこで、本アラートは米国倒産法の概要を説明します。

米国倒産システムは、再生手続中の倒産企業を債権者から保護しています。米国倒産法は、倒産申立後の債権者の権利行使を制限しており、倒産企業に対し、倒産手続内でのみ利用可能な強力な権利を付与しています。しかしながら、債権者は、倒産申立ての前後に適切な措置を採ることで、自らの権利を保全し、回収の可能性を最大化することができます。

倒産申立てによる即時の効果

米国においては、倒産する大企業は、一般に、倒産法第11章による再生を申し立てます。第11章に基づく再生の申立てにより、即時かつ自動的に、3つの重要な効果が発生します。

1) 倒産申立てにより、申立前の義務(すなわち、申立ての時点で存在する債務者の全ての義務)及び申立後の義務(申立ての後に初めて発生する義務)との間に明確な区別がなされることになります。倒産法は、申立前の義務及び申立後の義務を、異なるルールにより規律しています。申立前の権利を有する当事者は、倒産手続の中でそれを主張する必要があり、これをしない場合には当該権利を失います。倒産手続の終了を待ち、当該手続後に申立前の権利を主張するという選択肢は存在しません。

2) 倒産事件の申立てにより、債権者その他の利害関係者がその権利の実現又は向上のために行う全ての措置は自動的に停止されます。かかる「自動停止(automatic stay)」の趣旨は、債権者が、債務者又は他の債権者との関係で自らの立場を向上させることを防ぐ点にあります。かかる自動停止はまた、債権者が倒産手続から「離脱(opt out)」し、他の方法で自己の権利を行使することを防ぎます。かかる自動停止に対する違反については、懲罰的賠償を含む厳しい制裁が存在します。

3) 倒産事件の開始はまた、債務者の全ての法的又はエクイティ上の権利(財産に対する権利のみならず、契約上の権利、ライセンスを使用する権利、及び債務者が保有する他者の財産を管理する権利を含みます)からなる倒産財団(estate)を作出します。債務者の倒産財団を構成する資産について、これを支配又は取得するために行われる全ての行為は、自動停止に対する違反となります。

かかる3つの即時かつ自動的な効果が合わさることにより、事実上、債務者と関係する全ての第三者は倒産手続に組み込まれ、その中で権利を主張しなければならず、倒産手続外での権利行使を禁じられることになります。海外の債権者は、米国倒産手続から逃れようとすればするほど、自らの権利を恒久的に失う危険に晒されることになります。

未履行契約及びライセンス

「新しいスタート(fresh start)」の原則を促進するため、米国倒産法の下では、契約、期限満了前のリース及びライセンスの当事者が有する権利及び義務は、当事者の一方が倒産した場合に変更されます。特に、倒産法は、債務者が、裁判所の許可の下、未履行契約(executory contract)につき「拒絶」又は「引受け」の選択をすることを許容しています。未履行契約とは、契約の両当事者につき未履行義務が残っている契約をいい、ほとんどの契約がこれに該当します。

債務者は、未履行契約の引受け又は拒絶の決定を即座にしなければならないわけではありません。裁判所が決定するよう命じない限り、債務者は、再生計画承認の日まで待つことができます。再生計画は、倒産事件開始から数か月以内に承認されることもあれば、1年以上経った後に承認されることもあります。未履行契約の引受け又は拒絶の決定がなされるまでは、債務者及び契約の相手方は、当該契約を履行し続けなければなりません。

債務者は経済的な負担がある全ての契約を拒絶すると予想されます。そのような場合、他方当事者は、契約拒絶により生じる全ての損害を主張することができます。例えば、債務者は、毎月の支払義務があるライセンス契約を拒絶することができます。その場合、ライセンス許諾者は、当該ライセンス契約の残存期間分の支払いを受ける権利を主張することができます。この種の債権は、倒産手続の中で申立前の無担保債権として取り扱われます。

債務者による契約の引受け、また場合によっては当該契約の他者への譲渡、についてはより複雑なルールになっています。債務者は、当該契約につき存在する全ての不履行を治癒し、将来の履行につき十分な保証を提供する場合にのみ、当該契約を引き受けることができます。かかる条件を満たしている限り、債務者は、他方当事者が反対する場合であっても、当該契約上の権利を第三者に譲渡することができます。

加えて、米国倒産法は、一定の契約条項につき、これを執行不能にすることにより無効化します。一般に、契約当事者は、倒産申立てと同時に経済的効果が発生する条項を執行することができません。この法則は、倒産申立てと同時に支払期限が繰り上げられたり、買取権が付与されたり、又は解除権が発生したりする契約条項に適用されます。

債権者としての権利の保護

通常、第11章倒産の債権者として取り扱われるためには、債務者が債権に同意しない限り、「債権証明(proof of claim)」を提出する必要があります。かかる債権証明とは、倒産申立ての日における債権の種類及び額を示すもので、これには裏付け資料が添付されます。債権証明は、期限日(bar date)と呼ばれる特定の日までに提出されなければなりません。債権証明を期限内に提出しない場合、債権者は、債務者の再生計画に投票したり、又は当該計画の下で弁済を受けたりすることができなくなる可能性があります。

倒産財団を構成する財産の分配は、倒産法に基づく優先順位に従います。第11章手続の場合、最も優先順位が高いのは、倒産財団に対して有効かつ優位の担保権を有する債権者です。担保付債権者への弁済後に残余財産がある場合、これは無担保債権者に対し按分されますが、その際には当該財産の保存に必要であった実費(専門家費用及び申立後に生じた費用を含みます)並びにその他の種類の費用(租税及び労働債権を含みます)が優先されます。

経営危機に瀕している米国企業と取引がある日本企業は、自らの権利を守るため、十分に余裕をもって倒産申立てに対する対策を検討する必要があります。かかる対策としては、例えば、期限が到来済みの債権を回収又は再構成(re-characterization)したり、担保を取得したり、又は契約を解除したりすることが考えられます。第11章申立てがなされてしまうと、自動停止その他の倒産法上の定めにより、これらの対策を採ることはできなくなります。

日本企業はまた、第11章申立てを行った債務者は、一定の「否認権(avoidance powers)」を行使することができるという点に留意する必要があります。かかる否認権により、債務者は、倒産申立前に行われた金銭又は財産の移転を一定の場合に否認することができます。否認権は、一般に、倒産申立前90日以内に行われた移転について適用されますが、例えば、近親者等(insiders)に対する移転についてはより長い期間が適用されます。倒産申立人となる可能性のある会社のビジネスパートナーは、倒産申立て直前に受け取った支払いについて、全て返還しなければならなくなる可能性がある点に留意しなければなりません。

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