新型コロナウィルスの感染が引き続き拡大している中で、日本企業は、サプライヤーからの部品又は原料の調達につき困難に直面しているかもしれません。これにより、次は、売主たる日本企業につき、その顧客(米国の顧客を含む)に対して負う引渡義務を履行できなくなる危険が生じる可能性があります。このような状況に直面する日本企業に対し、ニューヨーク法上考察すべき幾つかの論点に焦点を絞って説明します。

フォース・マジュール(不可抗力)

引渡義務の不履行の危険に晒されている日本企業は、フォース・マジュール(不可抗力)の理論により、その履行から免れたり、これを遅らせたりできる可能性があります。フォース・マジュール ー その文字通りの意味によると、超越した力  ー  とは、当事者のコントロールの及ばない事象で、契約上の義務の履行を不可能にするものを意味します。Beardslee v. Inflection Energy, LLC, 25 N.Y.3d 150, 154 (2015) 参照。フォース・マジュール事象とは、典型的には、地震若しくは洪水といった「神の行為」、又は戦争若しくは暴動といった人的な事象を指します。新型コロナウィルスの世界的流行を基礎にフォース・マジュールを主張する日本企業は、以下の各点を検討する必要があります。

        1.  契約にフォース・マジュール条項が存在するか

フォース・マジュールの抗弁を主張しようとする日本企業は、まず、フォース・マジュール条項が契約に含まれているかを確認しなければなりません。日本及び米国のいくつかの州(例えばカリフォルニア州)と異なり、ニューヨーク州はフォース・マジュールを制定法の中に定めていませんし(統一商法典の中にあるものを除く。以下参照)、ニューヨーク州の裁判所は、フォース・マジュール条項を、それが明示的に定められていない契約の中に読み込むことはしません。

        2. 新型コロナウィルスによる供給断絶はフォース・マジュール事象に該当するか

フォース・マジュール条項の適用の可否は、まず、当該条項がどのようにフォース・マジュール事象を定義しているかによります。フォース・マジュール条項によっては、極めて重要なサプライヤーを失うことにより義務の履行が免除される旨明確に規定しているものがあり、サプライ・チェーン断絶の場合には、この種の文言がフォース・マジュールの抗弁の最も強力な拠り所となります。

新型コロナウィルスによる供給断絶は、感染に関し定められた文言(例えば「流行(epidemic)」、「世界的流行(pandemic)」、又は場合によっては「隔離(quarantine)」)を含む他の文言に該当する可能性があります。また、新型コロナウィルスが「神の行為」に該当するかについては議論があります。加えて、同ウィルス自体はフォース・マジュール事象に該当しなくても、同ウィルスの影響は、「政府による措置」又は「交通システムの障害」といった、フォース・マジュールに係る典型的な文言に該当する可能性があります。

多くのフォース・マジュール条項はまた、当事者のコントロールの及ばない「他の行為」のための包括規定を含んでいます。しかしながら、ニューヨーク州の裁判所は、これらの規定を狭く解釈しており、典型的には、当該フォース・マジュール条項に列挙されたものと類似した事象が主張された場合にのみこれを適用します。例えば、Kel Kim Corp. v Cent. Markets, Inc., 70 N.Y.2d 900, 903 (1987) (「一般的な用語は拡大的な意味を与えられるものではなく、特に言及された事項と同じ種類又は性質のものに限定される」)。

        3.  新型コロナウィルスが売主による履行を不可能にするか

フォース・マジュールの主張を行うためには、日本企業は、フォース・マジュール事象により自らの履行が不可能になったことを示さなければなりません。新型コロナウィルスが、日本企業自体ではなく、サプライヤーに主として影響を与える場合には注意が必要となります。そのような状況の下では、日本企業は、部品又は原料を他のサプライヤーから調達することができるのであれば、なお履行が可能であるとされるかもしれません。Hess Corp. v. ENI Petroleum US, LLC, 435 N.J. Super. 39, 51 (N.J. Super. Ct. App. Div. 4 2014) 参照(ニューヨーク法を適用し、契約がパイプラインを特定しておらず、売主が代替手段を用いることができた場合において、フォース・マジュールの抗弁を否定)。

加えて、フォース・マジュール事象は、履行が困難になったり、又はその費用が増大したりするだけではなく、履行を実際に不可能にするものでなければなりません。経済的な困難性は、一般に、それだけでは履行を免除するものではなく、またフォース・マジュール条項によっては、代替手段を尽くす合理的な努力を要件とするものもあります。従って、新型コロナウィルスによる供給断絶の場合、日本企業は、仮により高額であったとしても、代替供給源を探さなければならないかもしれません。

        4.  履行が恒久的に免除されるか、又は一時的に免除されるか

他の論点として、フォース・マジュールによる断絶の期間が関係するものがあります。フォース・マジュール条項は、恒久的にではなく、当該フォース・マジュール事象が継続する期間についてのみ履行を免除するものであるかもしれません。現時点では、新型コロナウィルスの世界的流行がどれくらい継続するか、また症例数が減少しはじめた後どのくらいの期間でサプライヤーの供給能力が完全に回復するかについて、誰も把握していません。これにより、不確実性、紛争、そして、フォース・マジュール条項が許容する場合には契約の解除が生じるかもしれません。

        5.  他の要件がないか

最後に、日本企業はフォース・マジュール条項を精査し、当該抗弁を主張するために何をしなければならないかを判断する必要があります。ほとんどのフォース・マジュール条項は、これを主張する当事者に対し、相手方に対する即時の通知を要求しています。また、多くの条項は、これを主張する当事者が遅延又は損害を軽減するための合理的な措置を採ることを要件としています。加えて、条項によっては、これを主張する当事者が免除の対象とならない義務を継続して履行することを要件としています(契約不履行に陥っていると主張されることを避けるため、いずれにしろ日本企業が行わなければならないものです。)。

フォース・マジュール類似の抗弁

        1.  統一商法典

サプライ・チェーンの断絶に直面している日本企業はまた、他のフォース・マジュール類似の抗弁を利用することができる可能性があります。物の売買に係る契約については、ニューヨーク州の統一商法典(「UCC」)が、フォース・マジュール類似の抗弁を、履行が商業的に非実際的になった場合について規定しています。

UCCの2-615(a) 条は、履行が「その不発生を契約締結の前提としていた偶発事象が発生したことにより、又は国外若しくは国内の適用政府規制に誠実に従ったことにより、非実際的になった場合」に、売主を遅滞は引渡不履行から免責します。重要なことに、UCCは、履行が「商業的に非実際的」になった場合の抗弁を提供しており、UCCの適用には、履行が不可能になる必要はありません。実務上、当該UCC上の抗弁は、影響を受けたサプライヤーが日本企業の履行に必要不可欠であると契約に定められていたり、それが状況から明らかであったりする場合にもっとも成功する可能性が高くなります。しかしながら、日本企業はなお、サプライ・チェーンの断絶が起こらないことが契約の基本的な前提であり、かかる断絶が予見不可能であり、かつそれにより履行が商業的に非実際的になったことを示さなければなりません。

UCCはまた売主に対する要件も定めています。UCCの2-615条によると、サプライ・チェーンの断絶が「売主の履行能力の一部にのみ影響を与える」場合、当該日本企業は、製造及び引渡しを、「衡平かつ合理的な方法」によりその顧客らに割り当てなければなりません(UCC 2-615(b) 条)。また、「売主は、適時に、買主に対し、遅延又は引渡しの不履行が生じること、及び、割当てが必要となる場合には当該買主に対する割当量の見込みを通知しなければならない」とされています(UCC 2-615(c) 条)。

        2.  CISG

国際物売買契約に関する国際連合条約(「CISG」)もまた、フォース・マジュール類似の抗弁を定めています。CISGは、当事者がその適用を排除し他の適用法を選択しない限り、物の売買に関する国際契約に適用されます。CISGが適用されると、そのコントロールを超えた障害により生じた当事者の不履行を、同当事者が「当該障害を契約締結時に考慮すること、及び、当該障害又はその結果を回避し、又は乗り越えることを合理的に期待され得なかった場合」に免責します(79(1) 条)。新型コロナウィルスによるサプライ・チェーン断絶については、影響を受けたサプライヤーからの部品又は原料の不足を回避したり、乗り越えたりすることができなかった場合、CISGにより日本企業の履行が免責される可能性があります。

        3.  コモン・ロー上の理論

最後に、日本企業は、不可能性又は目的達成不能というコモン・ロー上の理論に基づき責任を回避することができる可能性があります。ニューヨーク州の裁判所はこれらの理論を狭く解釈し、極限的な場合にのみ履行を免除します。しかしながら、状況によっては、新型コロナウィルスによる供給断絶により履行が不可能になった、又は契約の目的が達成不能になったと主張することができる可能性があります。

不可能性の理論は、予想できなかった事象  ー  すなわち当事者が契約の中で対処することができなかった事象  ー  により契約の主題又は履行手段が破壊され、履行が不可能になった場合に履行を免除するものです。例えば、不可能性の理論は、家屋の修繕義務を、その作業前に家屋が焼失した場合に免除します。

目的達成不能の理論は、予見不可能な事象により契約の主たる目的が達成不能になった場合に履行を免除するものです。ニューヨーク法においては、達成不能となった目的は、それがなければ契約の意味がほとんどなくなってしまうほど当該契約の完全な基礎となっている必要があります。Nitro Powder Co. v. Agency of Canadian Car & Foundry Co., 233 N.Y. 294, 298 (1922) 参照(目的不達成の理論により、爆発物の引渡し義務は、当該爆発物を政府が収用した場合に免除されると判断)。

結論

新型コロナウィルスによるサプライ・チェーンの断絶により売主たる日本企業の履行能力が脅かされている場合、当該日本企業は、その売買契約を注意深く確認し、どの法的抗弁が適用されうるか判断しなければなりません。同ウィルスを取り巻く不確実性を考慮すると、明白又は絶対的な回答は存在しないかもしれませんが、そのことは、リスクを軽減し、潜在的な紛争を予想することをより重要にするものです。

ヒューズハバードの日本プラクティス・グループは、数十年にわたり、米国における契約問題及び紛争について日本企業をサポートしてきました。当グループは、新型コロナウィルスに関する問題、フォース・マジュール、及び適用法について具体的なアドバイスを行うことができます。